月下星群 〜孤高の昴

“僕らのリアル?”
  


そういや、あれはベンだったか。
賭けをして勝ったんで手に入れたっていう、
随分とちゃんとした望遠鏡で、
夜の空を見せてもらったことがあってサ。
月だの星だの、
一つ一つ名前を教えながら観せてくれてサ。
土星の輪っかは、何かの本で見た挿絵と同んなじで、
それをそのまま言ったらば、

 ―― 馬鹿だなあ、
    本の挿絵の方こそ、
    実物そっくりに描いてある代物んじゃねぇか

なんて、
シャンクスに せいぜいからかわれたもんだったけど。

 『月はさ、あれって何てんだっけ、くれーたぁ?
  あのでこぼことかが見えたのが妙に生々しくってさ。』

夜の空にぽっかり空いてる天窓みたいな、
そこだけ何でか明るい丸だ、くらいにしか思ってなかった、
そんな感覚でいたもんが。
いやに丸い、立体感っての感じられたもんだから。

 『ああ、これが実物なんだって、
  そん時に初めて思ったんだよな。』

丸いもんがぽっかり浮かんでんだもんな。
意識し出すと何か不思議でよ、と。
冒険の話をするときのように、
目許を和ませ、口許には頬張り切れぬ笑み。

 『何だ何だ、そんな今更なこと。』
 『だってしょうがねぇだろ?』

俺、その頃は今より うんとずっと子供だったんだし、と。
呆れたような言いようをしたウソップへ、
殊更ムキになって言い返すのがまた、
何とも他愛ないというか、微笑ましいというかで。
突っ込みあってる二人以外は、
くすすと柔らかく笑ってた一景だったと覚えてる。


ワンピースも海賊王も、
その足元からの地続きの先にあるんだと。
夢物語でもなけりゃあ、世界の違う遠い話でもない、
その手が届く実在の代物なんだと、
欠片ほども疑わず、
幼いころから けろんと言い放ってたのだろう奴が。
なのに、そんな他愛ない“リアル”を、
まざまざ実感した瞬間があった、ドキドキ興奮したんだ なんて、
いかにも屈託なく語るのが、
妙にくすぐったくって、微笑ましくて。

  もしかして。
  そんなアイツの実在もまた、
  俺らには他愛ないくらいの“当然”なのに

  他の連中には、
  認めるのに時間の掛かる難物、
  飛び抜けた大馬鹿野郎なんだろな、と


 「  ………う…ん……。」

夢の中での何かしら だろうか、
うにゃむにゃと、うっすら開いた口の中にて、
曖昧なまま反芻しているらしき、未来の海賊王の。
依然として幼くも無邪気な寝顔、
屈託ねぇなと懐ろの中へと見下ろしつつ、

 「こいつには、
  どこまでが真剣に当たっていい現実で、
  どっからが馬鹿げた出鱈目なんだろな。」

ついつい呟いてしまった剣豪だったのへ、

 「   さてな。」

どう答えても答えにならない気がしたか、
それとも……今更聞くのか、しかもお前が?と呆れたか。
微妙な間合いを挟んでのお返事とそれから、
まだ封を切っていないラム酒、ボトルごと放ってくれたシェフ殿で。

 「このクソ暑ちぃ晩に、
  そんな鬱陶しいベッタベタを見せつけてんじゃねぇよ。」

とはいえ、動けまいだろうからと、
とっとと涼しいところを探してもぐり込んで来っから後はよろしくと、
そうと言いたいのだろと曲解しつつ。
じゃあなと甲板から下がってゆく金髪頭を見送れば、
その頭上には、ルフィが感嘆した月が、
見事な真円を描いて、びろうどの漆黒の中に浮かんでた。





   〜Fine〜  2011.08.09.


  *いやはや、晩になってもなかなか涼しくなりませんで。
   ど〜こ〜が、立秋過ぎてる気候なんでしょうか。
   エアコンつけるの忘れてたって日が、
   早く来ればいいのにねぇ…。

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